一角獣は夜に啼く

ただの日記です。

思ってることとか考えたこととか適当に書きます。 主にソフトウェア開発の話題を扱う 「ひだまりソケットは壊れない」 というブログもやってます。

読んだ : 一人になりたい男、話を聞いてほしい女

パートナーがうちに置いていったので読んだ。 『ベスト・パートナーになるために―男と女が知っておくべき「分かち愛」のルール 男は火星から、女は金星からやってきた』 (多分読んだことある気がする) の続編らしい。 著者は心理学博士で、結婚・恋愛を専門としたカウンセラーのジョン・グレイ氏。

一人になりたい男、話を聞いてほしい女

一人になりたい男、話を聞いてほしい女

原題は 『Beyond Mars and Venus : Relationship Skills for Today's Complex World』 となっていて、火星人や金星人 *1 といった紋切り型の役割分担における男女関係ではない、現代の複雑な社会における 1 対 1 の人間関係について語られる。 「現代は男性や女性といった属性でくくるのではなく個々人を尊重する時代である *2」 という前提のもとで、「生物的に男と女でホルモンバランスは違っていて、ストレス軽減のために必要となる行動は違う (それも個々人での差異はある)」 ということが主旨である。

パートナーとの人間関係について悩んでいる人はもちろん、個人として仕事とプライベートのバランスのとり方やストレス解消について知りたい人にもおすすめである。

気になったことなど

ストレス軽減とホルモンの話

男はテストステロンが多く、女はエストロゲンなどのホルモンが多い。 男女とも、自立や問題解決といった行動をすることでテストステロンが分泌されて気分は良くなるし、信頼や共生、世話といった行動をすることでエストロゲンが分泌されて気分が良くなる。 しかし、ストレス軽減という点では、男はテストステロンを増やす必要があり、女はエストロゲンを増やす必要があるらしい。 「女性が仕事などをしてテストステロンが増加する状況になっていたら、プライベートではエストロゲンなどを分泌するような行動をしてホルモンバランスを取ることが大事」、「逆に男性が主夫などをしていてエストロゲンなどが分泌されやすい状況なのであれば、別途テストステロンを増やす行動をとることが大事」 ということが書かれていた。

テストステロンを高く保ちながらオキシトシン分泌をすることも可能、って本書の後ろの方には書かれていたけど、具体的な話はどれかわからなかった。

ノルウェーのパラドクスの話

生物的に男女の適切なホルモンバランスは違っていて、ホルモン分泌のための行動も違っているわけだけど、ジェンダー差異がないことを目指している社会 (男と女で異なる役割を担うことを善しとしない社会) だと男女それぞれにとって適切なホルモンバランスのための行動が取りづらくストレス軽減ができない場合がある、という話が興味深い。

ノルウェーは、世界でもっとも男女平等が進んだ国だとされている。 だがこの国のカップルも、パートナーへの情熱が失われるという問題に悩んでいる。 離婚率は高く、独身者も多い。

この国では男女の役割分担は職場でも家庭でも平等であることが望ましいとされ、生物学的な違いを除けば、“男女は異なる存在だ” という考えを示すのは社会的に不適切だと考えられている。

ノルウェーのように男女平等が進み、選択の幅が広い社会では、あらゆる職業で男女の比率が同じになるはずだと思うかもしれない。 だが実際には、男女ともに従来型の男らしさや女らしさが求められる職業を選択する率が高い。

たとえば、幼稚園や小中学校の教員、清掃や看護などの職業では女性が、建設労働者、運転手、技術者、エンジニアなどの職業では男性の比率が高い。

これは、「ノルウェーパラドックス」 と呼ばれている現象だ。 従来型のロールメイトの関係から解放され、好きな職業を選択できる自由が増す一方で、多くの人々が伝統的な男女の役割に基づいた職業を選択しているのだ。

その理由はバランスだ。 ノルウェーでは、家で女性が女らしく、男性が男らしく振る舞うことが推奨されていないので、男性は外では伝統的な男らしい仕事を、女性は女らしい仕事をしてバランスをとろうとしているのだ。 逆にインドのように家で女らしく振る舞うことを求められている国の女性は、家の外では男性的な仕事をすることに意欲的だということがわかっている。

ノルウェースウェーデンの離婚率が高いのは事実だとして、そのデータだけでは 「社会保障が整っていて、各自が生きやすい生き方を選択しているだけ」 なのか、本書が言うように 「ジェンダー差異のないパートナー関係ではストレスを感じる人が多い」 のか、どっちが支配的なのかわからないけれど、いずれにせよ 「家庭でのパートナー関係において男女で役割の差異があるべきではない」 みたいなのを社会から要請されるのは違うよなぁという気はする。 性差や LGBT にまつわる問題のうち生きづらさに関する部分は 「生き方のステロタイプが社会に存在して、それに沿わない人間に対する圧力があること」 「他者の生き方への干渉を行う存在」 が原因として大きいと思っているので、社会として男女平等を掲げること自体は良いことだけど、役割分担について社会が個々の関係性に干渉してくるのでは生きづらさは変わんなさそう。

真の男女平等とは、違いを認め、尊重すること。 “男と女は同じ生き物だ” と考えていると、相手への理解や感謝が難しくなる。

男は洞窟タイムでテストステロンを回復する

男はテストステロンではなくエストロゲンが急上昇したときに怒りっぽくなる傾向があるらしい。 ストレスを感じるとテストステロンが減っていくので、その時には 1 人で自分の殻に閉じこもってテストステロンが増えるような活動をしてテストステロンを回復させると良い。 テストステロンの分泌に繋がる活動は下記のようなもの。

意思決定、努力とハードワーク、問題解決、プロジェクトに取り組む、効率的な行動、学習、能力開発、リスクを取る、得意なことをする、成功、勝利、競争、スポーツ、性的な行為、恋愛、相手の話を聞く、調べ物をする、車の運転。

リラックスしたストレスのない状況で、20 分から 30 分ほどテストステロンを刺激する活動をすると十分に回復できるらしい。

オキシトシン

男女ともに、オキシトシンは愛情や信頼、安全に関わる。 そして、オキシトシンはテストステロンを低下させる。

男の場合、オキシトシンでテストステロンが低下すると眠気が強まったりストレスが増えたりするし、性欲が低下することもある。 (もともとテストステロンが非常に強い場合は問題ないとのこと。)

女の場合は、オキシトシンはストレスホルモンのコルチゾールを下げる作用があり、ストレス低減に役立つらしい。 ストレス低減の効果は、エストロゲンレベルが高いほど高くなる。

オキシトシンを増やすには、非性的な肌の触れ合いが重要らしい。 また、愛情や思いやりを伴う行動、気持ちを分かち合うことでも増える。 パートナーに話を聞いてもらうだけでも効果がある。

月経周期とホルモン

女性の場合は、ストレスを減らし、幸福度を高めるのに関係するホルモンは 4 種類。 上に出てきたエストロゲンオキシトシン、テストステロン、それからプロゲステロン

エストロゲンは女性の生殖器を司る主要なホルモン。 オキシトシンは上に書いたような愛情や信頼のほか、女性においてはスムーズな出産や母乳の出、性的な興奮や反応性を高めてオーガズムを向上させることや睡眠の質に関わる。 オキシトシンエストロゲンは、何かを与え、代わりに何かを得るという持ちつ持たれつの関係 (つがいの関係) の中や、協力や協調といった行為で分泌されやすい。 男女の関係に限定されず、お店などで料金を払って対価を得るなども含まれるらしい。 (とはいえ恋愛関係で特に分泌されやすいとのこと。)

プロゲステロンエストロゲンに対してホルモンバランスを保ち、妊娠できる能力を維持する。 エストロゲンは脳を興奮状態にし、プロゲステロンは脳を落ち着かせる。 プロゲステロンは 「仲間の絆」 (パートナー以外との男女との親しく友好的な交流) を感じるときに分泌されやすい。 (同じ活動でも状況によって仲間との絆にもつがいの絆にもなり得て、それによって分泌されるホルモンも変わるらしい。) また、ストレスのない状態で自分が幸せを感じたりするための活動をしてもプロゲステロンは分泌される。

これらのホルモンバランスは月経周期に合わせて変化するため、月経周期に合わせて行うべき行動も変わってくる。

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  • 月経終了後の 5 日間 (フェーズ 1) は、エストロゲンとテストステロンが自然と増える時期で、この時期には外で仕事をする (テストステロン増加) とか家で育児をする (エストロゲン増加) などの行動が効果的らしい。 上の図だとテストステロンが増える時期はフェーズ 2 になってるけど、文章的にはフェーズ 1 が正しいっぽい?
  • 次の 5 日間 (フェーズ 2) が排卵期の前後にあたり、エストロゲンが普段の 2 倍になり、オキシトシンもピークに達する。 この時期にストレス低減に最も効果があるのはオキシトシンなので、パートナーとの時間が効果的。
  • その後の月経周期の後半から月経中の約 2 週間の間は、ストレス低減のためにプロゲステロンとわずかなテストステロンが重要。 なので、仲間との時間や自分のための時間をしっかり確保することが効果的。 パートナーに愛情を注ぎすぎて自分のための時間を確保できないというのは避けるべき。

おわり

本書の中で述べられている研究結果などについて特に参照が付いてないのでどこまで信用できるのかはちょっと微妙なところもあるけれど、ホルモンの働きとストレスや人間関係についてわかりやすく書かれていて良い本だった。 人間関係において重要なのは相手を尊重すること (属性で相手を規定しないこと) ではあるが、一般論として生物的にどういう状況でホルモンバランスがどう変化するのか、ということを知っておくのは有意義だと思う。 人間関係だけでなく、自分自身がストレスとどう向き合うかを考える上でも役立つ内容だった。

*1:『ベスト・パートナーになるために』 では、女は火星人 (協調性があり家庭的、というようないわゆる女性的な人)、男は金星人 (仕事での成功を求める、というようないわゆる男性的な人)、と説明されていた。 本書では、男でも火星人のような人もいるし、女でも金星人のような人もいる、という風に説明されている。

*2:少し前は、男が仕事をして、女が子育てをする、という役割分担の関係 (ロールメイト) で十分であったが、現代では男も女も欲求の次元が上がっており、お互いに心を満たしてくれるソウルメイトの関係を望んでいる。

読んだ : 痴女の誕生

いつかの誕生日に貰ったのだけどなかなか読み進めずに今までかかってしまった。

本書は、アダルトメディアにおける 「美少女」 「熟女・人妻」 「素人」 「痴女」 「ニューハーフ・男の娘」 という 5 領域の誕生や発展の過程が書かれている。 著者は、ライター・アダルトメディア研究家の安田理央氏。 対象になっているメディアは AV をはじめ、エロ本やエロ漫画、性風俗産業やインターネットなど。

1950 年ごろの話から最近の話題まで、数十年の歴史が詰まっている。 古い話題については (自分が生まれるはるか前だから) それこそ 「歴史」 という感じ。 最近の話題 (具体的に言うと大島薫さんについてなど) については 「こういう背景があったのかー」 みたいな気持ちになりながら読んだ。

基本的に知らない世界の話なので全体的に興味深い。 メディアが人々の好みに影響を与えてきたということだったり、逆に人々の好みによってアダルトコンテンツの中身も変わってきたという事例も描かれているので、メディアと人々との相互作用の事例としても面白かった。

特に面白かった話

読んでいて面白かったのは 「素人」 の章で、写真の現像の話。

「ちょうどこの頃、『写ルンです』 みたいな簡易カメラが発売されてるんですよ。 それで写真を撮る人が一気に広がった。 彼女とディズニーランドに行って、フィルムが余ってたらその後のホテルでも、つい撮っちゃうでしょう (笑)。 でもモロな写真は撮っても街のカメラ屋じゃ現像してもらえない。 だから、うちの雑誌ではプリントして返却しますよって投稿が一気に増えたんですよ」 (『ニャン²倶楽部』 夏岡彰編集長 週刊プレイボーイ 2012 年 12 月 3 日号)

こういうのってやってる本人は困ってるけど普通に生活してる人にとっては全然見えない不で、ニッチと言えばニッチだけどそこを解決することで一定の市場獲得に繋げられるんだなー、ということを思った。 (一般論としては普通の話ではあるけど事例としてめっちゃ面白かった。)

「ニューハーフ・男の娘」 のところでは、鶏姦という言葉を初めて知った。 1955 年の調査で、女装に目覚めたきっかけに対する回答に 「戦時中軍隊で上官から鶏姦されてから」 というものがあったという話。 獣姦的なやつかと思って 「???」 ってなったけど、調べたら男子同性間猥褻行為とかそういう感じっぽい。

けい かん [0] 【鶏姦▼】
男の同性愛。 男色。

鶏姦(けいかん)とは - 鶏姦の読み方・隠語辞典 Weblio辞書

明治時代には鶏姦罪という、アナルセックスを禁止する法律が制定されていた時期もあったらしい。 なかなか厳しい時代だ……。

鶏姦条例ができたきっかけは、明治5年白川県(現熊本県)より司法省に「県内の学生が男色をするが勉学の妨げなどになり、どのように処罰すればよいか」との問い合わせがあったことだったといわれ[42]、南九州で盛んに行われていた学生間の男色行為を抑えるためだった。但し男色(同性愛)自体は禁止されたわけではなく、薩摩藩などでは男色は引き続き行われており、事実上はザル法化していた。また実際に適用された事例も青少年間ではなく、刑務所における囚人同士や女装者が関わるものがほとんどで、鶏姦された側、即ち「女」として男根を受け入れた側が罰せられている。このように男色行為でも姦通される側が犯罪視され、姦通する側はほとんど逸脱とは意識されておらず、社会的にも許容されていたとされる[43]。

日本における同性愛 - Wikipedia

それと、「ニューハーフ・男の娘」 に関して、クンニを敬遠する男が多いという話題で出てきた下記の話。

しかし驚かされたのは、取材を進めているうちに 「女にクンニするよりも、男にフェラする方がマシだ」 という意見が出てきたことだ。 最初はそれは極端な意見だと思っていたのだが、意外に賛同する人も多かった。
男性器の方が、女性器よりも清潔だから、舐めるのに抵抗がない。 そうした理由もあるが、むしろ男性器が好きな男性が多いということがわかってきた。

この理由として、大島薫さんが語るミラーニューロンの話が挙げられていた。 大体下記のような感じ。

大島は、この「ギャップ」が男の娘の魅力だと語るが、もうひとつ外せないものに「ミラーニューロン」があるという。

〈これはイタリアにあるパルマ大学のジャコーモ・リッツォラッティらの研究によって、1996年に発見されたもので、例えば、物を掴んだり、操作したりする際に活発に作用する神経細胞です。霊長類には、自分で行動していなくても、他人が何かを動かしたりしている様を見て、あたかも自分がその動作を行っているように感じる能力が備わっています。それを担うのがミラーニューロンです。
 これは女装男子を見る場合に当てはまります。
 画面の向こうの女装男子が、男性器をシゴくのを見て、こちらまでその感覚が伝わってくる。そんな「共感のしやすさ」のようなものが、男性が女装男子に興奮する要因の一つになっている気がするのです〉(前掲『ボクらしく。』より)

同様の指摘は、『女装美少年』なるAVシリーズを手掛けた、ふたなり系AVの第一人者でもあるAV監督・二村ヒトシからもなされている。

〈ぼくにはおまんこが味わっている快楽は味わえないが、ちんぽの快楽は熟知している。(中略)感情移入しやすい。われわれ男は、ゲイでなくても、じつはちんぽが大好きなのだ。それは“自分自身”だからだ〉(「ユリイカ青土社/2015年9月号)

(2ページ目)チンポのあるAV女優・大島薫が語る男の娘AVの魅力…それは健康的で勃起力の強い、大きな男根にある!?|LITERA/リテラ

一理あるとは思うけど、個人的な実感としては画面の向こうの存在が男性であれ女性であれ、興奮に対する共感しやすさのようなものってそんなに変わらないと思っているので、結構意外だった。 (共感的な作用って犬とか猫みたいに明らかに自分と姿形が異なる存在に対しても発揮されると思うので、そんなに男性器を求めなくてもいいのでは?? という気がしている。)

関係ないけど、女性がクンニ好きで男性がニューハーフ好き、みたいなのは 「FANZA REPORT」 にも表れていて面白い。

special.dmm.co.jp

おわり

という感じで面白い話がいろいろ書かれている。 どういう人におすすめかと言われると困るけど、アダルトメディア・アダルトコンテンツ・性産業などに興味があったら読むと良さそう。

読んだ : NETFLIX の最強人事戦略 自由と責任の文化を築く

読んだ : トラスト・ファクター 最強の組織をつくる新しいマネジメント - 一角獣は夜に啼く』 でも言及したように、最近読み終わった。

NETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築く

NETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築く

自由と責任、ひいては自律的であることの重要性は 『トラスト・ファクター 最強の組織をつくる新しいマネジメント』 や 『人を伸ばす力―内発と自律のすすめ』、『チームが機能するとはどういうことか』 など様々な書籍で言われていることではあるのだけれど、実際に NETFLIX でどういう取り組みをしたのかというのが描かれている点と、業績に重きを置いているのが本書の特徴だと感じた。 また、人事目線での書籍は初めて読んだのでその点で (自分としては) 新鮮であった。

本書の著者は、NETFLIX の 『カルチャーデック (Culture Deck)』 (会社の哲学と、経営陣が実践してほしいと望むことがまとめられた文書) の作成者のひとりでもある。 本書とあわせて 『カルチャーデック』 も参考にするとよい。

tkybpp.hatenablog.com

印象に残ったところ

  • ネットフリックスの文化は、人材管理の手法や方針を次々と廃止していって形成された。 従来型のチーム構築や人材管理の手法は時代遅れになっている。
  • 人事考課連動型のボーナスと給与、生涯学習のような仰々しい人事施策、仲間意識を育むための楽しい催し、業績不振の従業員に対する業績改善計画 (PIP) などの取り組みが従業員の力を引き出し (エンパワメント)、やる気を促し (エンゲージメント)、仕事に対する満足度と幸福度を高めることができ、それが高い業績に繋がるという思い込み
    • お金と時間がかかるうえ、本来の業務の妨げになる。
    • 最終目標が顧客サービスの向上ではなく、やる気を高めることそれ自体になりがち
  • ビジネスリーダーの役割は、すばらしい仕事を期限内にやり遂げる、優れたチームをつくること
    • 従業員の忠誠心を高め、会社につなぎ止め、キャリアを伸ばし、やる気と満足度を上げるための制度を導入することは経営陣の仕事でも何でもない。
  • 6 ヵ月後に高い業績を上げるために必要なチームはどういうチームか? ということを出発点にチーム構築を行う。
    • 今のメンバーを出発点にはしない。 それでは理想的なチームにならない可能性がある。
    • 業績にとってベストだと思えば社内の人を開発・登用すればよいし、社外から採用すべきであれば迷わずそうしよう。 会社が目指す未来に高業績を上げられない人に投資するのは会社の仕事ではない。
  • ネットフリックスにおける人材管理に関する 3 つの基本方針。
    • 優れた人材の採用と従業員の解雇は、主にマネジャーの責任。
    • すべての職務にまずまずの人材ではなく、最適な人材を採用するよう努めること。
    • どんなに優れた人材でも、会社が必要とする職務にスキルが合っていないと判断すれば、進んで解雇すること。
  • 仕事に対する満足感は、優秀な同僚と問題の解決に挑戦することや、懸命に生み出した製品を顧客が気に入ってくれたときにこそ得られる。
    • 従業員特典が真の満足度につながるわけではない。
    • 採用面接においても、お金の話をしがちな人は採用を見送るようにしていた。
  • 人を採用したい部署のマネジャーが採用に責任を持つ。
    • 業績をあげるためにチームを作るのはマネジャーの責任。
    • 人事の採用チームはマネジャーを指導し、サポートする。
  • 採用面接は他のどんなミーティングよりも優先する。
    • 候補者も貴方を評価している。 たとえ候補者を不採用にするにしても、候補者の隣人が採用すべき人かもしれない。
  • 採用チームもビジネスマインドを持つ必要がある。 事業構築の重要な貢献者という立場。
    • 採用チームが仕える相手は採用を担当するマネジャーではなく、ネットフリックスの顧客である。
  • 人事考課と報酬制度を分離する
    • 市場水準の一定のパーセンタイル (65 パーセンタイルなど) を給与水準とするような会社が多いが、そうではなくトップレベルの給与を支払うべき。 そもそも市場の他の仕事と自社の仕事を厳密に比較することは難しいし、65 パーセンタイル程度の給与水準では欲しい人材を得られないことが多い。 トップレベルの給与水準にすることでこそトップレベルの人材を獲得できる。
    • 会社のすべての職務に対してトップレベルの給与を払えないなら、まずは会社の価値を大きく高められる人にだけでもトップレベルの給与を支払うべき。
    • 透明性を高めるべき。 報酬に関する情報を従業員と共有することで、給与に関してより良い判断を下し、偏見を減らし、様々な業務の業績への貢献について正直に話し合うことができる。
    • (ということが書かれていたが、結局のところ人事考課と報酬制度を分離するということの意味することをいまいち捉えきれなかった……。 業績への貢献と市場でのトップレベルの給与水準をもとに給与を決めろ、という話のようだが、業績への貢献を評価するのが人事考課ではないのか? 人事考課では業績への貢献を評価できない、ということなのか??)
  • 人事考課はフィードバックの期間としては長すぎる。 人事考課を廃止して、より短い期間でのフィードバックの繰り返しをすべき。
  • ハイパフォーマーはすべてがうまくいって満足しているというよりは、むしろチームの働きぶりに不満を持っていることが多い。
    • 成果を強く求めるからこそ。
    • 従業員に持ってほしいのは最高を追求する姿勢であって、まじめに働きさえすれば会社が守ってくれるだろうという安易な気持ちではない。
  • どんな人も、情熱のもてる仕事に好きなやり方でとりくめるように、社内外でいつでも動けるようにしておくべき
    • また、十分な業績をあげていないなら、それを素直に知らされる権利がある。 そうすればすぐに行動を改めたり、新しい会社に移ったりすることができる。
  • 積極的に解雇する。
    • 「その人が情熱と才能を持っている仕事は、うちの会社が優れた人材を必要とする仕事なのか?」 という判断基準。
    • すべてのマネジャーは、優れたチームメンバーが他社で良い機会を見つけられるように支援することができる。 例えば他社の人事やマネジャーに推薦するなど。

感想

「何か取り組みを行う際には明確な目的意識をもって行うこと」 ということが根底にあって良い。 ソフトウェア開発においても 『「世の中で流行っているから」 みたいな理由でライブラリを導入して、特に何も良くならない (そもそもライブラリを導入することで何を実現したいかという目的がない)』 というような現象があるが、おそらく人事制度・社内制度でも同様の現象が横行しがちなのだろう。 「ベストプラクティスだと言われている取り組みを行えばよい」 という考えに対するアンチテーゼとして 「業績にどう影響するかを考えて、不要な制度は廃止し、文化を形成すること」 が述べられてるのだろうなーという感じがした。

本書は 「業績への貢献」 を強く訴えているが、利益になるなら何をしてもいいというわけではなくて暗黙的に 「顧客や社会に対して良質なサービスを届けることが業績に繋がる (そういうビジネスモデルを組み立てている)」 ということを前提としているように思う。 高い業績をあげるためには、どの職種においても事業のモデルを理解して仕事に取り組む必要があり、それこそが人が仕事に求めていることである、ということが述べられている。 この観点はマネジメント系の本を読んでいるとしばしば忘れがちになるので、こうやって強く主張してくれるのはありがたい。

社内の制度を変えていくのは骨の折れる仕事ではあるけれど、しっかりとした目的があるからこそ着実に進めることができたのだろう。 NETFLIX で文化を作っていくときにどういう思想でやっていたのかということをまざまざと感じ取れるという点でもよい本だった。

読んだ : トラスト・ファクター 最強の組織をつくる新しいマネジメント

前に読んだ 『最高のリーダー、マネジャーがいつも考えているたったひとつのこと』 に続き、社長のおすすめ書籍第 2 弾。 こちらは 『信頼が大事』 ということを主題にしている。

TRUST FACTOR トラスト・ファクター~最強の組織をつくる新しいマネジメント

TRUST FACTOR トラスト・ファクター~最強の組織をつくる新しいマネジメント

『最高のリーダー、マネジャーがいつも考えているたったひとつのこと』 については下記記事に書いた。

vividcode.hatenablog.com

内容や感想

本書の内容は神経科学や経済学 (それらを融合させた神経経済学) 的な知見をもとに書かれている。 オキシトシンという物質により、他者を信頼して協力するという行動が促進され、最終的に業績に結び付く、という 「文化と業績モデル」 (下図; 本書より) がまず基礎にある。 このモデルにおいて業績向上の出発点となるオキシトシン分泌が促されるような組織文化 (信頼の組織文化) をいかにして設計するか、というのが本書の主題である。

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OXYTOCIN 因子について

信頼の文化を築くための 8 つの因子は下記。

  • オベーション (Ovation) : 同僚の成果を称賛する
  • 期待 (eXpectation)
  • 委任 (Yield)
  • 移譲 (Transfer)
  • オープン化 (Openness)
  • 思いやり (Caring)
  • 投資 (Invest)
  • 自然体 (Natural)

頭文字をとって 「OXYTOCIN」 因子と呼んでいるとのこと。 実際に組織文化を変更していくにあたっては、成果指標を定め、測定し、介入する因子を定めて期間を定めてポリシーの変更を適用して、結果を測定する、という形で少しずつ着実に進めていく。

オベーション (称賛・表彰みたいなの) について言えば、ベストプラクティスを語る場になるという点で同僚同士の情報共有が活発になったり、自分自身やチームのために頑張ろうという気持ちになるという効果があるらしい。 結構やり方次第な気はする。 あと課題の達成について言及すべきで、人間性への言及の場合はストレスになりえるとのこと。 (常に素晴らしい人間でいる人は居ないのでストレスになる、らしい。)

オベーションでの金銭的報酬は、外発的動機付けになり得て良くないとのこと。 せやな。

期待については、ストレスとの関係が書かれていた。 ストレスには 2 種類あり、良い効果のないストレスもあるが、一方で挑戦的なストレスもある。 努力すれば達成できることが見込めるような課題への挑戦などは良いストレスで、人をフロー状態に導き高い集中力を発揮させる。 そのような状態になるような目標を設定できると良い。 具体的で検証可能であるべき。 (これがなかなか難しい……。) チームで共有することでチーム内での協力がされやすくなる。

逆に、働きすぎなどの悪いストレスがかかっている状態になっている人が居たら積極的に介入していくべし。

ゲーミフィケーションの話もあったけどなかなか難しいところ。

委任については、ばらつきと淘汰を前提とした進化のプロセスである、と書かれているのが印象的だった。 仕事を任せる以上は仕事の進め方や成果について多様性やばらつきは当然出てくるが、それ自体は許容し、「オベーション」 によって淘汰を行うということ。 さらに、仕事の進め方だけでなく働き方や仕事の設計も含めて自己決定できる状態にあると、ストレスホルモンのコルチゾールの分泌が抑制されて健康に良く、パフォーマンスも向上する。 そういう状態を目指して 「移譲」 を行っていく。

委任や移譲では、期待による目標設定も大事。 自分はマイクロマネジメントとかはないと思うけど逆に放任しがちな気がするので目標のすり合わせとかをすることを意識してる。 (できてはない。)

オープン化については、情報公開はストレス軽減につながる、という話。 よく言われるように、人は不確実なものに対して強い不安感を覚えるものなので、業績や事業計画、個々人の業績評価の分布なども含め、共有できるものについては共有した方が良い。 一方でオープン化とプライバシーのバランスも大事で、例えば個々人の業績評価をそのまま公開すると本人が屈辱を感じるとか周りからの反感を買うなどで良くない。 組織での分布さえわかっていれば自分の立ち位置がわかるのでそれで充分。 うちのチームでも 「自分が組織の中でどういう立ち位置なのかわからない」 という声があるので、何かしら分布みたいなのは出せると良さそう。

思いやりについては、思いやりを持って人と接することで組織内での協力が活性化されるとか、オキシトシンの分泌が促されて共感が強くなり、倫理観が強くなるので規則を減らせたりするらしい。 人が人と社会を作っていくうえで大事。 リーダーの地位になるとテストステロンが分泌されやすくなるので、リーダーみたいな人は一層おもいやりを意識する必要がある。

「投資」 というのは、『自発的に働く従業員が仕事や生活面で様々な目標を持っていると認識し、それに応えること』 らしい。 仕事で高い成果を出すには、仕事の技能以外も重要であるため、全人的な成長が仕事の成果にもつながる、とのこと。 職業的な成長、個人的な成長 (家族とか生活面っぽい)、精神面の成長、という観点がある。 面白い投資としては 「睡眠への投資」 (昼寝スペースを職場に用意する、など) というのも紹介されていた。

OXYTOCIN 因子の最後は 「自然体」。 飾らず、ミスを隠さない。 人に敬意をはらい話を聞く、みたいなの。

目標 × 信頼 = 喜び

企業の目的は利益をあげることではなくて、顧客や従業員、さらには社会の人々の生活を向上させること。 人が食い扶持を得るために生きているわけではないように、企業も儲けることが目的ではない。

信頼の文化のある組織で、仕事の目標が明確になっていると、仕事の中で喜びが得られる。 そのために目標をストーリーとして組織全体に浸透させることが重要。

信頼の文化の効果

最後に、信頼度の高い文化を作ることで、生産性の向上や離職率の低下、病欠日数の低下といった効果があり、業績向上に寄与する、ということが説明される。

NETFLIX の最強人事戦略』 を読んで

最近 『NETFLIX の最強人事戦略』 を読んだのだけど、そっちでは 「とにかく業績を追うことを考える」 「従業員の満足度を高めるためのイベントやオフサイトミーティングみたいなものは不要」 「エンゲージメントやエンパワメントという言葉が嫌い」 ということが書かれていて、一見すると本書の内容と対立するように感じる。 だけど実際には、同じようなことを言ってる部分も結構ある。 例えば NETFLIX では徹底的に正直であることを求めているが、それは本書でいう信頼につながることだと思う。

NETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築く

NETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築く

とはいえ、本書では離職率の低下でトレーニングコストなどを下げられると言っているのに対して、『NETFLIX の最強人事戦略』 では離職率を指標にすべきではない、ということを言っていて、やはり対立する部分もいろいろある。

本書も従業員の満足度を上げることを目的にしているわけではなくて最終的に業績につながる取り組みをしていく、という話なので、目指す方向は一緒のはずではあるのだけど、中間の指標をどう置くかやどこに重点を置くかで取り組みも変わってくるのだろう。 (本書はどちらかというと仕事における幸せなどの内面的な部分を重視していて、『NETFLIX の最強人事戦略』 は業績を重視している。) バランスを取りながらいい部分をそれぞれ取り込んでいくのが良さそう。

読んだ : ロビイングのバイブル

『ロビイングのバイブル』 読み終わった。 総合 PR 会社のベクトルによる書籍。

本書は PR 会社による書籍なので、本書そのものが 「ロビー活動というものが大事であることを世の中に伝える」 というある種のロビー活動の一環なのだろうと思うが、ロビー活動について最初のとっかかりとしては読みやすい本だと思う。

ロビイングのバイブル

ロビイングのバイブル

  • 作者: 株式会社ベクトルパブリック・アフェアーズ事業部,藤井敏彦,岩本隆
  • 出版社/メーカー: プレジデント社
  • 発売日: 2016/08/09
  • メディア: 単行本
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「ロビー」 と聞くと、自社への利益誘導を目的として密室で行われるものである、というような悪い印象を抱きがちだけど、現代のロビー活動はもっと公益性を持ったもので、世の中を良くしていくために社会を動かすものである、ということが語られる。 新しいロビー活動は 『パブリックアフェアーズ』 と呼ばれ、これまでのロビー活動に公正性と透明性が加えられたものらしい。 世の中を良い方向に動かすという意味で PR (パブリックリレーション) も大事で、メディアを通じて問題提起することや公開さえた場で議論していき、世論形成していく。

そのために重要なのが 理念を打ち出す ということで、社会がどうあるべきかを考え、そのために必要な法整備やルール作りといったことをする。

企業の視点では、ロビー活動というのは事業環境を整備するために重要である。 事業に関連する規制やルールがある場合に (もちろんそれが合理的であればそれに則る必要があるけれど)、それが古い基準であったり時代にそぐわないものであったりしたらそれを変えていく必要がある。 そのためにロビー活動がある。 単にルールに従うというだけではなく、ルールを作るという意識が大事 *1。 また、ロビイストを通じて世の中の流れを押さえるというような事例も紹介されていた。

実際のところ、現代社会は新しいものがたくさん世の中に出てくるので、法律が古いままでは社会の進歩を阻害したりすることが多くあると思う。 そういう意味ではロビー活動も大事だよなー、と感じた。 一方で本書に出てくる事例を見ていると、公益性というよりも利益誘導ぽいものもあるよなー、というのをちょっと感じたりした。 (公益性が高そうな事例ももちろんあるのだけど。)

バイブルというほどのものかはわからないけれど、パブリックアフェアーズと呼ばれるロビー活動について知らなかった身としてはいろいろと学ぶことの多い本であった。 事業を推進するために社会環境に課題がある場合にはロビー活動によって解決していくのも一つの手段ということを頭の中に入れておきたい。

*1:これは別にロビー活動に限らず、あらゆる場面でそうだと思う。