読んだ : トラスト・ファクター 最強の組織をつくる新しいマネジメント
前に読んだ 『最高のリーダー、マネジャーがいつも考えているたったひとつのこと』 に続き、社長のおすすめ書籍第 2 弾。 こちらは 『信頼が大事』 ということを主題にしている。
TRUST FACTOR トラスト・ファクター~最強の組織をつくる新しいマネジメント
- 作者: ポール J・ザック Paul J. Zak,白川部君江
- 出版社/メーカー: キノブックス
- 発売日: 2017/11/30
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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『最高のリーダー、マネジャーがいつも考えているたったひとつのこと』 については下記記事に書いた。
内容や感想
本書の内容は神経科学や経済学 (それらを融合させた神経経済学) 的な知見をもとに書かれている。 オキシトシンという物質により、他者を信頼して協力するという行動が促進され、最終的に業績に結び付く、という 「文化と業績モデル」 (下図; 本書より) がまず基礎にある。 このモデルにおいて業績向上の出発点となるオキシトシン分泌が促されるような組織文化 (信頼の組織文化) をいかにして設計するか、というのが本書の主題である。
OXYTOCIN 因子について
信頼の文化を築くための 8 つの因子は下記。
- オベーション (Ovation) : 同僚の成果を称賛する
- 期待 (eXpectation)
- 委任 (Yield)
- 移譲 (Transfer)
- オープン化 (Openness)
- 思いやり (Caring)
- 投資 (Invest)
- 自然体 (Natural)
頭文字をとって 「OXYTOCIN」 因子と呼んでいるとのこと。 実際に組織文化を変更していくにあたっては、成果指標を定め、測定し、介入する因子を定めて期間を定めてポリシーの変更を適用して、結果を測定する、という形で少しずつ着実に進めていく。
オベーション (称賛・表彰みたいなの) について言えば、ベストプラクティスを語る場になるという点で同僚同士の情報共有が活発になったり、自分自身やチームのために頑張ろうという気持ちになるという効果があるらしい。 結構やり方次第な気はする。 あと課題の達成について言及すべきで、人間性への言及の場合はストレスになりえるとのこと。 (常に素晴らしい人間でいる人は居ないのでストレスになる、らしい。)
「現金報酬は慎重に」、これは外発的動機づけとしての現金報酬では期待する効果は出ないという話で、適切な報酬を出すことは必要である、ってデシ先生が言ってた#書籍 #トラストファクター
— Nobuoka Yu (@nobuoka) 2018年5月31日
オベーションでの金銭的報酬は、外発的動機付けになり得て良くないとのこと。 せやな。
期待については、ストレスとの関係が書かれていた。 ストレスには 2 種類あり、良い効果のないストレスもあるが、一方で挑戦的なストレスもある。 努力すれば達成できることが見込めるような課題への挑戦などは良いストレスで、人をフロー状態に導き高い集中力を発揮させる。 そのような状態になるような目標を設定できると良い。 具体的で検証可能であるべき。 (これがなかなか難しい……。) チームで共有することでチーム内での協力がされやすくなる。
逆に、働きすぎなどの悪いストレスがかかっている状態になっている人が居たら積極的に介入していくべし。
『(ゲーミフィケーションを) 「テイラリズム」 の現代版と見る向きもありますが』 って書かれてるの、私も同意見で、ゲーミフィケーションで動機づけするのなんてテイラー主義と変わんなくて、やるべきではないと思うんだよなー。 #書籍 #トラストファクター
— Nobuoka Yu (@nobuoka) 2018年6月3日
本書では 『従業員が気分を高揚させるためにゲームをするなら、自らの意思でやる必要がある』 って言ってるけど、自らの意思でやるならゲーミフィケーションの仕組みを作る必要はなくない? 書籍中に良い実例がない (ゲーミフィケーション活用の統計への参照はある) からなんとも言えないけども
— Nobuoka Yu (@nobuoka) 2018年6月3日
ゲーミフィケーションの話もあったけどなかなか難しいところ。
委任については、ばらつきと淘汰を前提とした進化のプロセスである、と書かれているのが印象的だった。 仕事を任せる以上は仕事の進め方や成果について多様性やばらつきは当然出てくるが、それ自体は許容し、「オベーション」 によって淘汰を行うということ。 さらに、仕事の進め方だけでなく働き方や仕事の設計も含めて自己決定できる状態にあると、ストレスホルモンのコルチゾールの分泌が抑制されて健康に良く、パフォーマンスも向上する。 そういう状態を目指して 「移譲」 を行っていく。
委任や移譲では、期待による目標設定も大事。 自分はマイクロマネジメントとかはないと思うけど逆に放任しがちな気がするので目標のすり合わせとかをすることを意識してる。 (できてはない。)
オープン化については、情報公開はストレス軽減につながる、という話。 よく言われるように、人は不確実なものに対して強い不安感を覚えるものなので、業績や事業計画、個々人の業績評価の分布なども含め、共有できるものについては共有した方が良い。 一方でオープン化とプライバシーのバランスも大事で、例えば個々人の業績評価をそのまま公開すると本人が屈辱を感じるとか周りからの反感を買うなどで良くない。 組織での分布さえわかっていれば自分の立ち位置がわかるのでそれで充分。 うちのチームでも 「自分が組織の中でどういう立ち位置なのかわからない」 という声があるので、何かしら分布みたいなのは出せると良さそう。
「意見を交換するときには、可能なら男女を同数にします。 (略) 職場での意思決定の質や創造性の高い問題解決策は、男女混成のグループやさまざまなタイプの人が集まったグループの方が優れている」
— Nobuoka Yu (@nobuoka) 2018年6月3日
性別に限った話ではなくて、意見、志向、視点などの多様性がねー#書籍 #トラストファクター
思いやりについては、思いやりを持って人と接することで組織内での協力が活性化されるとか、オキシトシンの分泌が促されて共感が強くなり、倫理観が強くなるので規則を減らせたりするらしい。 人が人と社会を作っていくうえで大事。 リーダーの地位になるとテストステロンが分泌されやすくなるので、リーダーみたいな人は一層おもいやりを意識する必要がある。
テストステロンの量が多いと利己的になり、権利意識も強くなる。 テストステロンによりオキシトシンの抑制もなされる。 なるほど#書籍 #トラストファクター
— Nobuoka Yu (@nobuoka) 2018年5月29日
『「思いやり」 はエンジニアにとっても重要です』 『グーグルの優秀なエンジニアにだって、普通の人と同じような人間的欲求があるのです』
— Nobuoka Yu (@nobuoka) 2018年6月9日
エンジニアは普通の人 (普通の人とは?) とは違うものだと思われてんのかなww#書籍 #トラストファクター
『苦しんでいる相手を前にしたとき、「共感」 だけでは私たちまで苦しくなってしまうのに対して、「思いやり」 で臨めばむしろ私たちの脳はポジティブな状態になることが知られている』
— Nobuoka Yu (@nobuoka) 2018年6月19日
これ自体はいいことではあるけど、変なハマり方をするとだめなことになるやつ#書籍 #トラストファクター
「投資」 というのは、『自発的に働く従業員が仕事や生活面で様々な目標を持っていると認識し、それに応えること』 らしい。 仕事で高い成果を出すには、仕事の技能以外も重要であるため、全人的な成長が仕事の成果にもつながる、とのこと。 職業的な成長、個人的な成長 (家族とか生活面っぽい)、精神面の成長、という観点がある。 面白い投資としては 「睡眠への投資」 (昼寝スペースを職場に用意する、など) というのも紹介されていた。
OXYTOCIN 因子の最後は 「自然体」。 飾らず、ミスを隠さない。 人に敬意をはらい話を聞く、みたいなの。
目標 × 信頼 = 喜び
企業の目的は利益をあげることではなくて、顧客や従業員、さらには社会の人々の生活を向上させること。 人が食い扶持を得るために生きているわけではないように、企業も儲けることが目的ではない。
信頼の文化のある組織で、仕事の目標が明確になっていると、仕事の中で喜びが得られる。 そのために目標をストーリーとして組織全体に浸透させることが重要。
信頼の文化の効果
最後に、信頼度の高い文化を作ることで、生産性の向上や離職率の低下、病欠日数の低下といった効果があり、業績向上に寄与する、ということが説明される。
『NETFLIX の最強人事戦略』 を読んで
最近 『NETFLIX の最強人事戦略』 を読んだのだけど、そっちでは 「とにかく業績を追うことを考える」 「従業員の満足度を高めるためのイベントやオフサイトミーティングみたいなものは不要」 「エンゲージメントやエンパワメントという言葉が嫌い」 ということが書かれていて、一見すると本書の内容と対立するように感じる。 だけど実際には、同じようなことを言ってる部分も結構ある。 例えば NETFLIX では徹底的に正直であることを求めているが、それは本書でいう信頼につながることだと思う。
- 作者: パティ・マッコード,櫻井祐子
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2018/08/17
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とはいえ、本書では離職率の低下でトレーニングコストなどを下げられると言っているのに対して、『NETFLIX の最強人事戦略』 では離職率を指標にすべきではない、ということを言っていて、やはり対立する部分もいろいろある。
本書も従業員の満足度を上げることを目的にしているわけではなくて最終的に業績につながる取り組みをしていく、という話なので、目指す方向は一緒のはずではあるのだけど、中間の指標をどう置くかやどこに重点を置くかで取り組みも変わってくるのだろう。 (本書はどちらかというと仕事における幸せなどの内面的な部分を重視していて、『NETFLIX の最強人事戦略』 は業績を重視している。) バランスを取りながらいい部分をそれぞれ取り込んでいくのが良さそう。