一角獣は夜に啼く

ただの日記です。

思ってることとか考えたこととか適当に書きます。 主にソフトウェア開発の話題を扱う 「ひだまりソケットは壊れない」 というブログもやってます。

2018 年の書初め

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『愚者は経験に学び 賢者は歴史に学ぶ』

オットー・フォン・ビスマルクの言葉から生まれた格言。 もともとのビスマルクの言葉では 「歴史に学ぶ」 というよりは 「他人の経験から学ぶ」 という意味だったらしい。 要は 「自分の経験以外の失敗から学びを得る」 ということっぽい。

愚者だけが自分の経験から学ぶと信じている。私はむしろ、最初から自分の誤りを避けるため、他人の経験から学ぶのを好む。(直訳)
Nur ein Idiot glaubt, aus den eigenen Erfahrungen zu lernen.
Ich ziehe es vor, aus den Erfahrungen anderer zu lernen, um von vorneherein eigene Fehler zu vermeiden.
愚者は自分の経験に学ぶと言う、私はむしろ他人の経験に学ぶのを好む。(英語版)
Fools say they learn from experience; I prefer to learn from the experience of others.

オットー・フォン・ビスマルク - Wikiquote

一見新しく見える概念が多く現れ、個人の経験だけでは世界の流れを全然追えない現代だからこそ、歴史や他の人の経験から様々なことを学ぶ重要性は高くなっていると思う。 ソフトウェア開発の分野でも、一見新しい概念ではあるが実際は既存のものの焼き直し、ということはよくあることだし、自分の専門分野外で当たり前に使われているものが自分の専門分野にも適用できて有意義、ということもある。

歴史教育とジェンダー―教科書からサブカルチャーまで (青弓社ライブラリー)

歴史教育とジェンダー―教科書からサブカルチャーまで (青弓社ライブラリー)

歴史といえば、私は学校教育における 「暗記する歴史」 みたいなのが嫌いなのだけど、最近はそういう学校教育における 「歴史」 を変えていこうとする動きもあるっぽい。

現在、文部科学省では2022(平成34)年から使用する高等学校の教科書において小中高のすべての科目で「主体的で対話的な深い学び(アクティブラーニング)」の導入をめざしています。ところが、高等学校の歴史教育では、従来、教科書に収録した用語の暗記中心の教育が行われることが多かった上、教科書の収録用語が改定の度に増大し、古代から始めた授業が近現代まで到達せずに終わることが多くみられました。その上、大学入試では、一部に思考力・表現力を問う記述式などの出題が増えてきたものの、多くの大学では依然として用語の暗記力を問う問題が出題され続けています。
このような現状の改善なしには、歴史的な思考力を育成する授業を大幅に増やすことは難しいと思われます。

高大連携歴史教育研究会

応援していきたい。 (影ながら。)

Zaim で振り返る 2017 年 (から過去 3 年分) の収支 (転職・上京前後の相対比較)

2018 年になりましたね。 明けましておめでとうございます! 私は家計簿を付けるのに Zaim を使っていて、ちょうど 2017 年の締めの記入を昨日していました。

Zaim だと年単位のグラフで過去 3 年分をまとめて見ることができて、年単位の収支の変化が見えてなかなか面白いです。 それを見ていて、「ちょうど転職・上京を真ん中にして *1、転職・上京前後を相対比較できるなー」 と思ったので収入と支出のグラフを公開してみます。 (生のスクショを貼ってるだけなので見にくいですが、グラフ自体はさほど重要ではないのでご容赦を。)

転職や上京を考えている人の一つの検討材料になれば。

前置き : 報酬を動機づけに用いるべきではない

ちなみに、仕事に関して報酬を動機づけに用いるべきではないと思っています。 一方で、適切な評価のために適切な報酬は必要であります。 (参考 : 『読んだ: 人を伸ばす力 ― 内発と自律のすすめ - 一角獣は夜に啼く』)

ここではお金のことばかり話しますが、報酬を動機づけにすべきでないことは頭の片隅に入れておいてください。

収入の部 (転職の話)

収入の話ってなかなかしづらいですが、給料を隠すことで雇用側と被雇用側の情報格差が生じるとか、差別的な待遇に繋がりやすいという話があります (『デビッド・バーカス: あなたが同僚の給料を知るべき理由 | TED Talk』) し、給料の話をすることで IT 業界全体の労働者の待遇改善に繋げようみたいな動きもあります。 なので、収入の話は皆でやっていきましょう。 最近だと 『IT屋お給料リレー Advent Calendar 2017 - Qiita』 (まとめ) というアドベントカレンダーがあり、興味深かったです。

んで私がどういう感じだったかということこういう感じ。

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2015 年が前職、2016 年は前職と現職が混ざってて、2017 年が現職。 2015 年については少し仕事を休んでいたので前職の年収を完全には反映してないのですが、「その他」 の部分も含んで 1 割増しぐらい (= 真ん中の横線あたり) で見てもらえると大体 (2015 年当時の) 年収相当になります。

現職の 「給与所得」 が大体前職の年収 (賞与や各種手当込み) 相当で、現職ではそこに 「賞与」 が乗る分年収が上がったという感じですね。 大体 1.4 倍ぐらいです *2。 あと 「事業所得」 *3 と 「評価損益」 *4 でちょっとだけ収入が上がっています。

転職の際、こちらの希望年収としては 「前職の年収 + 東京の物価が高いのを考慮した分 + α」 ぐらいを提示したのですが、さらに高い金額を提示してもらってこんな感じになりました。

何が言いたいかというと

今の仕事で、自分の成果や能力に見合った報酬を受け取っていないと感じている貴方! 転職してみるのも一つの方法です! 私の例 *5 のように、転職時に年収が上がることもあります *6。 初めての転職って結構不安だったり緊張したりするものですが、実際に転職すると複数の環境を知っていることの強みを出せたり *7、人脈が広がったりして結構良いものです。

そして、転職先として是非弊社はどうでしょうか!! 事業内容を見ても社会的に意義があるし面白いですよ! JVM 言語 (Scala、Kotlin、Java) でのサーバーサイドや RailsAndroid アプリ、iOS アプリといったアプリケーションエンジニアやインフラエンジニア、データ基盤エンジニアなどを募集中です! (興味があったら Twitter の DM なりなんなりでお声がけください!) *8

確かに……!

弊チームの人へ

弊チーム (or 弊社) の人でこの記事を見た貴方! もし 「適切な報酬を受け取っていないと感じているものの自分で給与交渉とかもしづらい」 という場合は転職する前にまず私に相談してください! (私には何の権限もないけど) 相談に乗ったり交渉の手助けをしたりはできるし、していきたいと思ってます! *9 *10

世の中的に新卒で入社した人はなかなか給料が上がらないみたいな風潮があるけど、弊社の場合はいわゆる新卒テーブルに縛られてどうしようもないみたいなことはないっぽい気がする *11 ので、とりあえず相談していきましょう。

交渉のメソッド: リーダーのコア・スキル

交渉のメソッド: リーダーのコア・スキル

支出の部 (上京の話)

転職に合わせて関西 (奈良・京都) から東京に引っ越したので、「東京で暮らすのって実際どの程度費用がかさむのか」 というのも出しておきます。

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2015 年が京都駅の近くで一人暮らししていた時のもの。 2016 年は京都での一人暮らしと奈良の実家での生活と東京での一人暮らしが混ざってて、2017 年は東京での一人暮らし *12

2017 年を見ると、収入が増えた分 「税金」 (= 税金・社会保障費) が増えたのと、東京に移って 「住まい」 (主に家賃) が増えたという感じですね。 転職の際に 2017 年 5 月までの住民税をまとめて納めたので、グラフの 2017 年の 「税金」 は実質的な税金より低めになってるぐらいです。 (その分 2016 年の 「税金」 が実質的な税金より高くなってます。) 家賃は 1.7 倍ぐらいになったのですが、もともと築 20 年ぐらいの 6、7 帖程度のワンルームだったのが新築の 10 帖弱の部屋 + キッチンの 1K になったというものなので、単純な比較はできません。 東京ではおそらく住む場所によって家賃がだいぶ違っていて、23 区内でも場所を選べばおそらく京都市内の 1、2 割高いぐらいの家賃で家を探せると思います。

広島と比べると 2 倍ぐらいという話 (『地方の田舎者が東京に一年住んでわかったこと - そーだいなるらくがき帳』) もあります。 たぶん奈良県内 (それも場所によると思うけど) と比べても 2 倍弱ぐらいで考えた方がいいかもしれません。 特に大きな家になるとその傾向が高い気がします *13

東京に移ってからライブに誘ってもらう頻度が上がったので、その分 「エンタメ」 も増えました。 「交際費」 も少し増えたかな、という感じですが、多分もともと人づきあいが少なかった人間なので、一般的な人間の水準になったのだと思います。

「食費」 は 1、2 割上がったぐらいですね。 多分外食が多い場合は東京に移ると食費ももっと増えると思うのですが、スーパーで売っているものを見ると京都も東京もさほど物価の違いはなくて、自炊をしていると食費はさほど変わらない気がします。 (これも家賃と一緒で東京の中でも地域差が大きいかもしれません。 いずれにせよ、奈良と比べると京都も東京も物価は高いですね……。)

そんな感じで、基本的には東京に行くと (同じ生活水準だと) 京都市内と比べて 1、2 割ほど費用がかさむ (東京に居るとイベントが多くてそれに参加することでさらに支出が増える、みたいなのはある)、というのが実感です。 あくまで一人暮らしの場合の実感なので、家族が居るとまた違ってくるかもしれません。

収支全体を見て

転職して東京に引っ越したので支出が増えた一方で収入も増えたので、収支全体としては正の方向に動きました。 多分一人暮らしでもともとの収入がそんなに高くない場合、東京に出た方が収支全体を正の方向に動かせると思います。 一方で家族がいると地方の方がいいかもしれませんね。

それでは 2018 年も流動性を高めて市場全体で報酬が適正な方向に動くように働きかけていきましょう! 皆様にとって良い 1 年となりますよう。

*1:2016 年 8 月に関西から関東に引っ越し、2016 年 9 月に転職した。

*2:さらに言うと前職では退職金がなくて現職は退職金が出たりするので、グラフで見る以上に待遇の差はありそう。

*3:現職は副業可能なので。

*4:最近は仮想通貨などでリスクを取って大きな評価益を得ている人も居そうですね。

*5:「私の例」 というのはあくまで私の年収が上がったことだけを言っているのであって、前職の給料に不満を持っていたというわけではありません。

*6:逆に適正な報酬を貰っていないと感じていたが、実際には市場の相場平均程度の報酬を貰っていることがわかったりもしますね。

*7:視野が広がったり、違う文化からの視点を持ち込める、など。

*8:弊社というのがどこか知ってる人向けの案内です。

*9:自分自身が 「不満を持った段階で (社内の人に相談したりせずに) 転職を決める」 みたいな種類の人間なので、そういうのを防ぎたい気持ちがある。

*10:一方で若者にはいろんな経験を積んで欲しいなとも思ってるので、そういう意味では転職するのを応援したい気持ちもあって、わりと中立的に相談に乗ります。

*11:新卒 1 年目とか 2 年目とかで転職時の私と同水準の給料の人も居るっぽい?

*12:まだ確定申告をしていないので、税金まわりなどはまだ完全なものではないですが、おおよそのものとしては。

*13:地方は大きな家がだいぶ安かったりする。

Google Home Mini を買って家で音楽を聴く生活に戻った (自分のライブラリの曲を再生する)

Google Home Mini を買った。 ちょうど半額セールをしていた *1 ので大体 3 千円ぐらい。

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Google Home Mini は USB ケーブルでの給電により動作する。 「Google Home」 アプリ (Android 版 / iOS 版) で初期設定などを行う。

Google Home Mini と音楽再生

うちには CD/MD 再生機があって、中学から高校にかけては CD やら MD *2 やらで音楽を聴いていた。 大学生になってからは PC の音声出力を再生機に繋いで PC の音楽を再生して聴いていた。 よほど集中しているとき以外は音楽をかけていることが多かったように思う。

それが最近は、音楽再生と言えばスマホで移動中に聴くことが主になってしまっていた。 家ではたまに CD を聴いたり、スマホの音声出力を再生機に繋いで聴いたり、Bluetooth スピーカーに繋いでお風呂で聴いたり、PC のスピーカーを使って再生する、という感じであった。 基本的にはどれも再生までが少し面倒 *3 で、音楽が遠い生活である。

音楽を気軽に聴けるように、自分としては 「自分の PC 内や NAS、クラウド上に保存している音楽ファイル」 を 「部屋にあるスピーカーから手間なく再生できる」 ようにする、ということをしたかった。

Google Home Mini で自分の音楽ライブラリの曲を再生する

Google Home には音楽再生の機能もある。 「Google Home」 アプリで音楽再生の設定画面を開くと、音楽サービスとして 「Spotify」 と 「Play Music」 が表示される。

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「Play Music」 の方には 「Play Music の定期購入が必要です」 と記載されており、一見すると定期購入しないと使えないように見える。 実際には 「Play Music」 を選択すると、(定期購入せずとも) 自分の Google Play Music ライブラリの曲を Google Home で再生できるようになる。

Google Home ヘルプの上の方にも 『Google Play Music (有料版)』 と書かれていて、ぱっと見は有料版でしか音楽再生ができないように見えるが、詳細を見ると下記のように書かれている。

Google Play Music で購入したりライブラリにアップロードしたりした曲、アルバム、アーティストをオンデマンドで聴くことができます。ライブラリ内の曲でプレイリストを作成することもできます。

Google Home で音楽を聴く - Google Home ヘルプ

次のページも参考になる。

Google Play Music のライブラリには 5 万曲までアップロードできるので、普段使いする分には不自由なく音楽再生できるはずだ。 これで、私も部屋で音楽を聴く生活に戻ることができた *4

曲名を教えてもらえる

自分が曲名を把握していない曲が流れることがある。 Google Home だと、「この曲はなに?」 と訊くと曲名を教えてもらえる。 便利。

「音楽を再生」 と言うと Kalafina の 「音楽」 が再生される問題

Cortana さんに 「音楽を再生して」 と言ったときにも起こる問題なのだが、ライブラリに 「音楽」 という名前の曲があると、それが再生されてしまう。 私のライブラリには Kalafina の 「音楽」 があるので、この問題が起こってしまう。

どうしたらいいのかと思ったが、単に 「何か音楽を再生して」 と言えばいいらしい。

  • カスタマイズされたおすすめ: 何か音楽を再生して。
音楽を聴く - Google アシスタント ヘルプ

この音声コマンドは Cortana さんにも通じた。

Google Home Mini を買った感想

このページではここまで音楽再生のことしか言っていないが、個人的には音楽再生だけで十分な価値があると思っている。

あとは、日常のちょっとしたことを音声コマンドで訊けるのが便利という印象。 時計のない生活をしているので 「今何時?」 で時刻を教えてもらえるとか。 料理中にタイマーをかけたいときに音声コマンドだけでタイマーをかけられる、とか。

他の使い方はまだ模索中。 とはいえ何かと便利なので、一家に 1 台持っていると便利そうである。

*1:半額セールは既に終了している。

*2:MD というのはもはや死語では……?

*3:PC での再生は PC で作業してるときにはいいのだけど。

*4:単に Bluetooth 接続できるスピーカーにスマホを接続して音楽を流せば良いのではあるが、スマホ操作すら不要で音楽を流せるというのが個人的にはかなり良かった。

はじめてのふるさと納税

同僚がふるさと納税でカニや肉を手に入れている話を聞いて触発されたので、はじめてのふるさと納税をしてみた。

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最初なんで地元にふるさと納税しよう、って思って調べてみたら金魚 (金魚の特産地なのです) やお肉をはじめとしていろいろといいものがあった。

お肉にも興味はあったのだけど、賞味期限周りで扱いやすくて調理もしやすそうだったので、(初めてということもあるし) 生パスタセットを貰うことにした。

ふるさと納税の流れ

うちの地元の大和郡山市の場合は、上記 「ふるさとチョイス」 というサイトでふるさと納税を受け付けていた。 自治体によってふるさと納税の受け付け方は違っている模様。 サイト上から寄付を申し込むことができ、支払いはクレジットカードで完了する。

数日後に自治体から 「寄附金受領証明書」 が送られてきて、さらに数日後に返礼品の生パスタセットが届いた。

後は年度末に確定申告をすれば、寄附金としての所得税の控除と住民税の控除 (寄附金としての控除とふるさと納税による特例の控除) を受けられる。 税金の控除については下記ページがわかりやすい。

ワンストップ特例制度について

2015 年からはワンストップ特例制度というものも始まって、状況によっては確定申告せずに住民税の寄附金税額控除の適用を受けられるようになったらしい。

ワンストップ特例制度では住民税の寄附金税額控除が受けられる、ということは所得税の控除はないのか? と一瞬思ったのだけど、そんなことはなくて、本来は所得税から控除される分も住民税から控除されるようになるらしい。

ふるさと納税ワンストップ特例が適用される方は、確定申告を行う必要はありません。この場合は、所得税からの控除は行われず、その分も含めた控除額の全額が、ふるさと納税を行った翌年度の住民税の減額という形で控除されます。

総務省|ふるさと納税ポータルサイト|よくある質問

控除による税収減みたいな話

2015 年以降日本全体でのふるさと納税の金額が増えてきて、控除による住民税の税収減が厳しい自治体がある、という話も最近聞くようになってきた。 今の制度的に 「ふるさと納税した方が圧倒的にお得」 という感じなので、理念の実現とは離れた制度設計になってしまってるよなー、という気はする。

読んだ: 人を伸ばす力 ― 内発と自律のすすめ

会社の先輩にメンタリングについて相談したところおすすめされた一冊。

人を伸ばす力―内発と自律のすすめ

人を伸ばす力―内発と自律のすすめ

サブタイトルにもあるように、内発的動機づけと自律的に生きるということの重要性、さらにはそういった生き方ができるように他者を支援するためにどういう考え方でいればよいか、ということが述べられている。

感想

本書は 20 年近く前の書籍であるが、今なお重要な内容だと感じる。 外発的動機づけが溢れている現代社会において自分がどう生きていくのか、ということを考えるために、あるいは子どもや教え子をどう支援するのか、同僚や家族との人間関係をどのように結ぶか、組織をどう形作るのか、ということを考えるために、本書は多くの示唆を与えてくれる。

内発的動機づけの話から始まり、自律性の重要性の話、社会における関係性について語られる。 最後には自由について至る。 一貫して説かれるのは 「自律的に生きること」 である。 自律的であるからこそ内発的動機づけが高まるし、自律的であるからこそ社会との相互作用の中で個人が成長していくのだろうと思う。 自己組織化されたチームになるためにも、各自の自律性が重要になってくるように感じた。

最後に語られる、自由とは 『環境をかえることに前向きであることと、環境に敬意を表することとのあいだにバランスを見いだすこと』 というのは、組織において、人と人とが、人と環境とが相互作用しながら成長していくために、各自が持っておくと良い態度であろう。

人生を考える上でも、個人の成長を考える上でも、さらには組織の成長を考える上でも学びの多い本だった。

内容紹介

内発的動機づけ

内発的動機づけとは、「自ら学ぶ・やる意欲」 である。 例えば、幼い子どもが好奇心で様々なことを学んでいくのは、内発的動機づけにもとづくものである。

生まれつき人が持っている内発的動機づけであるが、様々な要因により内発的動機づけは低下させられる。 具体的には、報酬、強要、脅し、監視、競争、評価といった方法により、人が統制されていると感じたならば、その場合に内発的動機づけは低下する *1。 報酬や競争や評価といったものは、現代社会において動機づけの方法として広く使われているもの (外発的動機づけ) であるが、そういったものが内発的動機づけを低下させるのである。

内発的動機により何かの行為に打ち込んでいるとき、人はいわゆる 「フロー状態」 になっている。 時間の感覚が消え去り、集中力が持続し、ワクワクするような気持で満たされている。 好きなことに打ち込んでいるときにそういう状態を経験した人も多いだろう。 それ自体が重要であるが、さらに内発的動機づけと外発的動機づけそれぞれの行為の成果を比較しても、やはり内発的動機づけによる行為の方が高い成果を出すことが多いようである。 例えば学習について、内発的動機による学習と外発的動機による学習を比較すると、内発的動機によるものが概念的な理解が深いのに対して、外発的動機によるものは表面的な理解になっているという研究結果が紹介されている。 これは自分自身の経験を思い返してみても実感のあることで、「興味のあることを調べたり学んだりする場合は、嫌々やるのと比べて遥かに理解が進む」 というのは多くの人が納得いくところだと思う。

また、学習以外の芸術的な活動や問題解決といった分野においても、内発的に動機づけられた方が高い成果をあげるとのことである。 一方で、単純なルーティン課題の場合には報酬による動機づけによって遂行のスピードが増すこともある。 ただし、この方法では、報酬が与えられたときだけは行為を行ったり、巧妙なサボタージュをするなどの別の負の側面を持っている。 こういった話は 『チームが機能するとはどういうことか――「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ』 にもあって、単純労働に対してはある程度の効果があるが、現代の複雑な問題を解決していく必要がある仕事においてはむしろ負の効果があると述べられていた。

内発的動機づけに重要な自律性と有能感

さて、そんな内発的動機づけであるが、それを高めるために重要な要素として自律性と有能感が挙げられている。

上で 「統制されているという感じ」 が内発的動機づけを低下させると書いたが、統制の反対が自律性である。 人には、「自らの行動を外的な要因に強制されるのではなく自分自身で選んだと感じたい」、「行動を始める原因が外部にあるのではなく自分の内部にあると思いたい」 という心理的欲求がある。 自律性がなければこれが満たされず、内発的動機が低まるのであろう。

また、(内発的なものだけでなく) 動機づけに重要な要素として、行動と結果が結びつけられる仕組みの存在がある。 さらにはその行動を十分に行うことができると感じている必要もある。 それが有能感である。 すなわち 「できる」 という感覚が内発的動機づけにおいても外発的動機づけにおいても重要なのである。

自律性と有能感が揃ってはじめて、最良の結果がもたらされる。

社会の中で、あるいは個人間の関係で

2 部 「人との絆がもつ役割」 では、社会の中で自律的であることや人間関係について述べられる。

人は、生得的な心理的欲求として関係性の欲求 (need for relatedness) を持っている。 「愛し愛されたい」、「思いやってあげたい」、「思いやりを受けたい」 という欲求である。 人はしばしば自律性への欲求と関係性の欲求が両立しないものであると考えている (自律性を独立性と同一視してしまっている) が、実際はそうではない。

独立性は他者からの物質的、情緒的支援に頼らないことである一方、自律性は自由な意志と自己選択の感覚を持って自由に行動すること。 つまり、自由な意志で独立することもできるし、逆に自由な意志で依存することもできる。 自律的でありながら依存することも可能であり、それは有用で健全である。 『自律的に依存することは、実際きわめて自然な状態』、『真に選択されたのではない依存こそが、不適応をもたらす原因』 と書かれている。 私自身、自律的であることと独立的であることの区別をしっかりとは付けられていなかったので、この指摘にはハッとさせられた。

そしてこの関係性の欲求に導かれて、人は集団の成員となる。 このとき、人は社会の価値 (規範など) を身につける必要がある。 このプロセスを内在化 (internalization) という。 内在化のプロセスにおいて、社会化の担い手 (親や教師、上司など) が統制的であるか自律性を支援するかによって、価値の内在化の程度が異なってくる。 不完全な内在化は単なる取り入れ (introjection) に過ぎず、その個人の内に存在する統制的なルールとなってしまう。 最適な内在化は、社会の価値規範を咀嚼し、個人の価値規範に統合 (integration) することがである。

このプロセスにおいても、自律性の支援が重要となる。 「何故そういう規則があるのか」 ということを説明したり、相手の立場にたって感情を理解するといった方法で自律性を支援することで、統合へ向かう内在化のプロセスが促進される。 反対に、随伴的な愛情や尊敬 (「こういう状態であればよい」、「こういうことをすればえらい」) が統制の手段として用いられた場合には、取り入れが促進される。 さらに、自分自身を随伴的に評価するようになってしまう。 つまり、他者からの愛情や尊敬を得るために外的な要求に従って生きてきて、今、自分自身からの愛情と尊敬を得るためにも取り入れられた規範に従う必要が出てきてしまう。 自律性の欠如に結び付くのである。 興味深いのは、取り入れによる内在化が行われた個人と統合による内在化が行われた個人とで、一見すると違いがわからないということである。 いわゆる優等生に見られて放置されがちな子どもが、実際には取り入れによる内在化が行われた結果であり自律性の支援を必要としていることもある。

そして、取り入れによる価値規範を持つ人の持つ自尊感情は随伴的なものである。 価値規範にしたがった評価がそのまま人間としての自己価値に結び付く。 反対に、真の自尊感情は、人間としての自分の価値を信じるという堅固なもので、価値規範には依らない。 統合された価値規範で自分自身を評価することはあるが、それが人間としての自己価値とは直接結びつかないのである。

相互依存関係を考えるとき、もっとも成熟した、満ち足りた関係を特徴づけるのは真の自己と真の自己が関わりあう関係である。 お互いが自律的に、真の選択の感覚を持って関わりあう限りにおいて、その関係は健全なものであり、お互いの個性や特性を支援できる。

病める社会の中で

多くの人が持っている生きる意欲のうち、外発的意欲 (富や名声、肉体的魅力) のいずれかが、3 つの内発的意欲 (個人的関係の満足、社会貢献、個人の成長) と比較して突出して高いとき、精神的健康も低い傾向にあるということも述べられている。 自律性が支援された子どもは、外的基準をうまく統合し、外発的価値と内発的価値のバランスを取りやすい。 反対に、自律性の支援や関与が不十分だと、上述の取り入れや随伴的な自己の感覚がもたらされ、さらに外発的意欲への指向性がもたらされる。

さらにいうと、現代社会は外発的意欲を掻き立てるものであふれている。 これは子どもだけでなく大人に対しても大きく作用している。

どうしたらうまくいくか

3 部では、他者の自律性を支援する方法、あるいは自分自身が (統制の中でも) 自律的に生きていくための方法が書かれている。

他者の自律性を支援する方法としては、以下のようなことが挙げられている。

  • 選択を与える。
  • 必要に応じて制限を加える場合 :
    • 制限自体を本人や組織が決めると良い。
    • 制限の範囲はできるだけ広くとる。
    • 情報提供をする。
    • 犯した過ちに見合う結果を示す。
  • 目標の設定と成果の評価。
    • 目標を個々人のレベルに合わせる。 本人が目標設定に関わると良い。
    • 実績の評価にも本人が関わる。 目標に達していない場合には、それを批判の根拠にするのではなくて解決すべき問題とみなす。 基準が不適切だったのか、予期せぬ障害が起こったのか、云々。
  • 適切な報酬と承認。
    • 動機づけではなく *2、評価として。
    • 競争は多くの敗者を生む。 各チーム内の優れた業績に対してそれぞれ賞を与えるなどの方法。
  • 自律性を支援されていない人は他者の自律性を支援することも難しい。
    • 圧力をかけられている上司は、部下にも圧力をかけがち。

自分が自律的に生きるためのこととしては、以下のことが述べられていた。

  • 特別な支援を見つける。
    • 自分を支援してくれる個人を見つけるなど。
  • 統合されたパーソナリティ (自律性志向)。
  • 社会環境とパーソナリティの相互作用。
    • 個人が周りの人に対して与える影響。 自分を支援してくれるような振る舞いをするみたいなの。
    • 周りの行動を支援的に見るようなものの見方をする、というパーソナリティ。
    • パーソナリティが社会環境に影響を与え、社会環境がパーソナリティにも影響を与えてお互い成長していく。
  • 自分の望むことが実現するように積極的になる。
    • 欲しいものを世界が与えてくれるのを待つのではない。
    • 「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」 ってやつや。
  • 自分の経験・感情をマネージする。
    • 環境のマネージ以上に重要。
    • 感情や内的衝動をマネージする調整過程を形成すること。 自分の欲求を満足させる方法を見つけること。
    • 生起された感情に対する再評価過程。
  • 自分の行動を調整する。
    • 感情が動機づける行動をうまく調整すること。
    • 感情の純粋さは指標として重要。 悲しみは純粋だが抑うつは純粋ではない。 純粋な感情は心の栄養となる。
    • 自律的であれば、感情を十分に経験し、どのように表出するか選択できる。
  • テクニックを使用。
    • 自分にとって有用であればテクニックを使うのもいいかもしれない。
    • 動機なしでテクニックだけ取り入れようとしても無意味。
  • 自分を受け入れる。
    • 自分の内的世界に関心を持つこと。
    • 「なぜ自分は○○するのか?」
    • 自分の行動の理由を非難の対象にしてはならない。

自由とは

最後の 4 部 「この本で言いたかったこと」 では、自由と責任について述べられる。

人間の自由とは、真に自律的であること。 『環境をかえることに前向きであることと、環境に敬意を表することとのあいだにバランスを見いだすこと』。 自由であることは他者への受容する態度を伴う。 我々は一人で生きているのではなく大きな組織の一員であり、そこへ統合されようと努力するとき、責任を発達させる。 そのために社会からの栄養が必要であり、栄養を提供するかどうかによって社会が人々の心理的な自由に影響を及ぼす。

ついーとログ








*1:適切な報酬など、内発的動機づけを低めないこともある。

*2:動機づけとして報酬を用いるのは逆効果になりえる