読んだ : ALLIANCE アライアンス ―― 人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用
著者の 3 人はシリコンバレーの起業家。 環境変化の速いシリコンバレーにおいて、組織が成長していくために組織と人がどのように相互信頼を築いているかが描かれている。 監訳の篠田さんは 「ほぼ日」 の糸井重里事務所の人 (当時) で、彼女による少し長めの前書きも本書に引き込まれる一つの要素であった。
ALLIANCE アライアンス―――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用
- 作者: リード・ホフマン;ベン・カスノーカ;クリス・イェ,篠田真貴子;倉田幸信
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2015/07/10
- メディア: 単行本
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だいぶ前に読んでずっと放置してたのだけど、下記のついーとが結構ふぁぼられたので書き残しておく。
自社に人を誘うときに 「リモートワーク可能でフルフレックスだし残業もそんなになくて働きやすい職場です」 みたいなことも言えるけど、組織として強くなるためには 「今我々はこういう課題を持っていて、それをあなたと一緒に解決していきたい」 みたいなことをまず言うべきだよな、って思ってる
— Nobuoka Yu (@nobuoka) 2018年9月7日
もともと社内インターンシップみたいな制度を考えていて、「別チームへの移動を頻繁に行うとか、短期的に別チームに移ることでチーム間の知見の交換が活発になるのではないか?」 というような話を社内でしていたときに 「『ALLIANCE』 って本にコミットメント期間って概念について書かれていて、そこのローテーション型がまさにそういう感じだったかも」 って教えてもらって読み始めた。
どういう内容か?
簡潔に言うと 「終身雇用の時代が終わり、信頼関係のない、うわべだけの雇用関係が多く結ばれている。 そのような状態では、企業としては長期的思考ができないし、雇われる側の個人としても企業からの支援を得づらく、お互いにとって良い状態ではない。 これを脱するために、雇用を 『取引』 ではなく 『アライアンスの関係』 として捉えなおそう。 それによって相互信頼と相互投資を実現し、相互に利益を高めあえる状態にしよう」 という趣旨である。 アライアンスの関係のもとでは、事業の変革と個人の成長が同時に達成され、また、仮に退職するとなっても話し合いは建設的なものになり、退職後もその人と企業の間は良好な関係が続く。
アライアンス関係の重要性が説明された後、下記の内容が続く。
- コミットメント期間
- ネットワーク情報収集力
- 卒業生ネットワーク
コミットメント期間
- コミットメント期間 (ツアー・オブ・デューティ) : 「ツアー・オブ・デューティ」 は軍隊用語で、任務や配置の割り当て 1 回分を表す。
- (「アライアンス」 の文脈においては) このコミットメント期間を繰り返してキャリアを積み上げていくという考え方になる。
- 重要なコンセプトは、「ミッションを期限内に成し遂げることに専念し、そこに個人の信用をかける」 ということ。
- コミットメント期間はあらかじめ期間が決まっている。 → ピリリとした緊張感をもたらすし、将来の関係を話し合うための良い時間軸でもある。
- 誠実に話し合うこと。
- 将来のキャリアについて、退職することも含めて話し合う。 「コミットメント期間」 があることで、そういう話もやりやすくなる。
- 3 種類のコミットメント期間
- ローテーション型 : パーソナライズされておらず、入れ替えやすい業務。 体系化された有期の制度で、新入社員の実地研修として用いたりもされる。
- 変革型 : 個人個人で異なるミッション。 期間を一定に定めるよりも、特定のミッションを完遂することに重きが置かれる。
- 経験則では、その人の初めての変革型コミットメント期間は 2 年から 5 年ほど。
- 一つの製品開発などのプロジェクトを最初から最後まで終えるぐらいの期間。
- 会社にとっては大きな変革がもたらされ、本人にとってはキャリアを一変させるものになる。
- 基盤型 : 創業者や CEO など、人生と仕事がほぼ不可分になっているような場合。
- とはいえ上層部だけに限らない。 会社のコアバリューを守り伝える役割。 本人にとっては仕事から大きな目的と意義を得られる。
- 3 種類のコミットメント期間は組み合わせること。
- ローテーション型は会社に規模拡大をもたらし、変革型は適応力を、基盤型は継続性をもたらす。
- コミットメント期間を設定するために、会社のミッションと個人の価値観をすり合わせる必要がある。
- この時、すべてをすり合わせる必要はなく、コミットメント期間の間でのすり合わせができればよい。 (ミッションと価値観のすり合わせを完全に行うことは基本的には不可能だが、期間を限定することでそれが可能となる。)
ネットワーク情報収集力
- ネットワーク情報収集力 : 人脈 (ネットワーク) 全体が所有する知識・情報のこと
- 終身雇用の時代には、マネジャーも社員も社内に集中することが良しとされたが、現在ではそれは破滅的な自己陶酔でしかない。
- 社外に存在する優れた頭脳は社内よりも多い。 表には出てこない情報を得られることもあるし、異文化交流による新しい発想が生まれることもある。 新しい機会の発見につながることもある。
- 個人のキャリア構成のためにも人脈は重要。
- 会社は仕事の中で人脈を広げるサポートをして社員のキャリアを一変させる手助けをし、社員は自身の人脈を仕事に活かして会社の変革を手助けする、というのが理想的な形。
- 『社員が仕事中についったーでつぶやいても、就業規則違反をしたかのように扱わないこと。 むしろ推奨しよう』
- 『面白い人たちとランチをしたら会社の経費にしてよいと社員に伝えよう』
- 副次的な効果として、採用活動にも役立つ。
- ネットワーク情報収集力をどうやって育てるか?
- ネットワーク力のある人を採用する : 単にフォロワー数が大きい人とかではなくて、適切な人とつながりがあるのか? そのつながりの質はどうなのか? 面接では、仕事において最も助けてくれた人について聞くのが良い。
- 人脈があることだけを基準にするという話ではなくて、他が同じ条件なら人脈のある人を採用すると良い、という話。
- 会話やソーシャルメディアの駆使 : 「非公開情報 = 機密情報」 であると考え、「機密情報の漏洩」 を恐れてソーシャルメディアでの発信などを抑える会社もあるが、金融系でない場合は非公開情報は必ずしも機密情報ではない。 機密情報以外については積極的に社外と情報交換することを促す。
- 会社への還元の仕組み作りもできると良い。 定例の中で、「社外から得たうわさ話を持ち寄り、一番いいうわさ話に賞金を出す」 みたいな施策をしている会社もある。
- ネットワーク予算の確保や勉強会の開催など。
- ネットワーク力のある人を採用する : 単にフォロワー数が大きい人とかではなくて、適切な人とつながりがあるのか? そのつながりの質はどうなのか? 面接では、仕事において最も助けてくれた人について聞くのが良い。
卒業生ネットワーク
- 終身雇用が当たり前でなくなった現在、退職後の元社員 (卒業生) は現役で仕事をしていることが多い。
- 卒業生と良好な関係を築くことは、会社にとっても卒業生にとっても利益がある。
- 会社にとっては
- 優れた人材の確保に役立つ。
- 有力な情報を得られる。
- 顧客を紹介してくれる。
- ブランド・アンバサダーになってもらえる。
- ROI も高いのに、実際に会社の施策として卒業生ネットワークを運営できているところはあまりない。
- 関わり方はいくつかある
- 非公式の卒業生ネットワークを支援する。 ピザ代を出すとか。
- 卒業生ネットワークを正式なものとして、積極的に投資する。
感想など
読んだ当時は一人のソフトウェアエンジニアだったのだけど、ラインマネージャになった今改めて振り返ると、マネージャにとって非常に重要なことが書かれているなぁと感じる。 重要なのは 「信頼関係」 ということで、会社と個人の間も、個人同士も、まずは信頼関係があってこそ未来に向けての建設的な話ができるというのは間違いない。 うわべだけの話で雇用関係を結ぶのではなく、明確に期間を定めてミッションを設定するというコミットメント期間の概念は、会社と個人の間の関係構築のためにも役立つもので、組織を強くしていくためにも有用であると感じた。
うちの会社のことを思うと、価値観とミッションのすり合わせだったり、いつか退職することを前提とした関係構築といったところは文化として根付いている。 一方で、ミッションが半年ごとの区切りになっていて大きなプロジェクトごとのコミットメント期間を設定する設計になっていなかったり、社外の人との交流がやりやすい制度になってるかというとそうでもなかったり (推奨はされてるんだけど大きな企業だから事前確認が必要とかでちょっと面倒)、みたいなところは改善の余地があるよなぁということを思った。
ちょうど先週、「評価制度」 をテーマにした社内の話し合いの場 (ワールド・カフェ形式でざっくばらんに話した) があって、そこでも 「半年ごとのミッション設定が、大きな仕事をするのに向いていない」 という話が出てきたりもしたし、個人的にも 「業務によっては半年ごとのミッション設定でいいけど、半年ごとだと長すぎたり短すぎたりもする場合も多いなぁ」 ということを感じていたので、ローテーション型と変革型のコミットメント期間という考え方をミッション設定に適用していくことを考えたい。