読んだ : なぜ人と組織は変われないのか
なぜ人と組織は変われないのか――ハーバード流 自己変革の理論と実践
- 作者: ロバート・キーガン,リサ・ラスコウ・レイヒー,池村千秋
- 出版社/メーカー: 英治出版
- 発売日: 2013/10/24
- メディア: 単行本
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ロバート・キーガン著 『なぜ人と組織は変われないのか ―― ハーバード流 自己変革の理論と実践』。 隣のグループのマネージャにオススメしてもらったので読んだ。
感想
- 結局のところ、表面的な部分だけ見るのではなくて、深い部分まで見ることが重要、という話だと思う。
- 自己の内省という意味でもそうだし、人と人の関わり、組織全体という意味でも。
- 「変わりたい」 と意識していても、無意識的な裏の目標があってそれを阻害することがある、というのは 「なるほど」 と感じた。
- 不安を打ち消すための免疫機構、それを明らかにする免疫マップという考え方も面白い。
- 根底にある固定観念。 自分にとっての 「当たり前」 なので、それを疑うということ自体が難しいことがあるのだと思う。
- だからこそ常に 「それってなんでなんだっけ?」 と自分に問いかけたり、「当たり前」 だと思っていることや常識といったものにとらわれない自由な発想をしていきたい。
- 『エヴァンゲリオン』 最終話における、自由と不安と不自由とか、固定観念、自己が世界をどう認識しているかということを客観視する、みたいな話に通じる内容。
- 適応的な課題と技術的な課題の区別みたいなの、ぼんやりと意識はしてたけどちゃんと区別していこう。
- 成長する組織であるためには、リーダーの姿勢、組織文化として発達志向であることも重要、というのも意識していきたい。
- 今の会社を考えてみると、発達志向という組織文化はわりとしっかり根付いている気がしていて、それよりは技術的な部分 (制度とか仕組みの部分) が弱いような気もしている。
読書メモ
- 人の知性は大人になっても成長を続ける。 (30 年前は 「肉体の成長と同じで 20 歳ぐらいで成長は止まって、後は知識や経験が増えるだけ」 だと思われていた。)
- 人が直面する課題は 「技術的な課題」 と 「適応を要する課題」 に大別される。 現代社会で人が直面するのは、適応を要する課題が多い。 それらは技術の習得では解決できず、解決のためには知性のレベルを高めて思考様式を変容させていく必要がある。
- 適応を要する課題に対して技術的なアプローチを採るという失敗を犯しがち。
- 免疫マップを用いることで、適応的な課題の根本的な原因を探るという手法。
大人の知性の話
大人の知性のレベルとしては次の 3 段階が書かれている。 主に主体 (としての思考や感情) と客体 (= 客観視できる自身の思考や感情) の線引きがどこにあるかに応じる。
- 環境順応型知性 : 環境からどう見られるかや、環境、文化、流派、組織、人間などに順応し、それに忠実に従うことで自我を形成する。
- 集団思考 (グループシンク) に陥ったりする。
- 環境に順応するというのはどの段階の知性の人間でもあるような気がしているが、それを認識できるかどうかというのが違いなのかなーという気がする。
- 自己主導型知性 : 周囲の環境を客観的に見る。 内的な判断基準を確立している。 自分の価値観に基づいて自我の範囲を設定し、管理する。
- (無意識かもしれないが) 何らかの目標や目的、基本姿勢などを持っており、それがコミュニケーションの前提となる。 情報発信においても、自身の目標や目的を達成することを目的として他者に情報を伝える。
- 情報の受け取りについても、自身の目標や目的などに応じてフィルタリングする。
- 自己変容型知性 : 自身のイデオロギーや内的な判断基準をも客観視できる。 対立する複数の考え方の一つに与するのではなく、それらを統合して自我を形成する。
- 自身の目標や目的を進めることだけでなく、目標や目的自体を見直す余地も含めて他者とのコミュニケーションを行う。
- 情報のフィルターについても、フィルターそのものも客観視し、フィルターの見直しも必要に応じて行う。
本書において、適応的な課題の解決と知性の段階の関係についてはあまり明確には述べられていないように思うが、おそらくは 適応的な課題を解決するためには、人 (自分自身を含む) のイデオロギーや内的な判断基準といった部分に目を向ける必要がある ため、ここでこのような知性の話がなされるのだと思う。
適応的な課題と免疫マップ
なんらかの解決すべき課題・達成すべき目標があるとき、それを阻害する要因 (阻害行動) を挙げることはできるだろうが、その要因を技術的に排除することが必ずしも適切な解決策とは限らない。 阻害行動をとる理由となる真の目的をあぶりだし、そちらに対するアプローチをとることが必要なことが多い。
そのために、本書では 「免疫マップ」 というものを作る手法が紹介されている。 具体的には、下記の項目を順に明らかにしていくものである。
- 1 つめの項目として 「改善目標」
- 2 つめの項目に改善目標を達成することを阻害している 「阻害行動」
- 3 つめに、阻害行動の要因となる 「裏の目標」
- 4 つめに、裏の目標の根底にある 「強力な固定観念」
具体例として、本書に書かれている 「麻薬系鎮痛薬の処方をめぐる問題」 における、とある看護師の免疫マップを書いておく。
- 改善目標 : 麻薬系鎮痛薬の処方に関して、病院のルールを徹底する。
- 阻害行動 : 医師の態度に問題を感じても本人にそれを指摘しない。
- 裏の目標 : 意志を批判することで、居心地の悪い思いをしたくない。
- 強力な固定観念 : 意志を批判すれば、医師が腹を立てて自分を避けたり、非難したりするだろう。 職場で居心地の悪い思いをすれば、仕事を楽しめなくなる。
本書のこの麻薬系鎮痛薬の処方をめぐる問題については、医師と看護師のグループがこのような免疫マップを各自で作り、裏の目標・強力な固定観念を認識し、その後数ヶ月にわたってそれらを意識したことで、結果として病院全体で成果を上げられたとのことである。
この例だと、麻薬系鎮痛薬の処方に関してルールを徹底させるために、例えば 「ルール違反に対して強い罰則を設ける」 などは技術的なアプローチと言える。 この例においてはそのような技術的なアプローチは適切ではなく (罰則を設けると逆にルール違反が見えにくくなったりとか、別の問題が出てきたりとかしがち)、適応的なアプローチが適していたのであろう。
なぜ 「免疫マップ」 というのか
阻害行動を起こす要因となる裏の目標は、不安を消し去るためのものである、というのが本書の主張である。 人や会社からの評価や自分に対する悪影響、将来に対する不安といったものを消し去るための 「裏の目標」 があり、それを達成するために 「阻害行動」 が起こされる、というのものである。
正しく働けば不安をうまく取り除ける、まさに 「免疫」 のようなシステムである。 そのため、「免疫マップ」 と呼ばれている。
リーダーはどのように道を示すべきか?
最後に、成長する組織を作るためには、リーダー個人や組織文化として発達志向であることが重要、ということが書かれている。 本当の発達志向の姿勢が満たす要素としては、下記 7 つが挙げられる。
- 大人になっても成長できるという前提に立つ : 技術的な知識や経験を増やすという意味ではなく、基本的な思考様式そのものも変化していく、という前提。
- 適切な学習方法を採用する : 研修などで技術を学んで帰ってくる、というような学習方法ではなく、実際の業務を行いながら実験したり、そのような挑戦の結果を共有したりするという感じで、組織学習を日常業務の中に組み込む。
- 誰もが内に秘めている成長への欲求をはぐくむ : システム全体を変化させるような課題はたいてい適応を要する課題なので、技術的な変化だけでなく自己変容が必要。 各自が、自分を成長させる良い問題に取り組んでいく。
- 本当の変革には時間がかかることを覚悟する
- 感情が重要な役割を担っていることを認識する
- 考え方と行動のどちらも変えるべきだと理解する : 目的を明確にして内省を行い、行動の変化に結び付ける。
- 安全な場を用意する : 子どもの知性発達の場合と同様、試練と支援の組み合わせが欠かせない。 特に、不安を回避するための免疫機構を変えていくような試練では不安に立ち向かうことになるので、安全な場を用意することは重要である。