読んだ : イシューからはじめよ 知的生産の 「シンプルな本質」
安宅和人 『イシューから始めよ 知的生産の 「シンプルな本質」』 を読んだ。
- 作者: 安宅和人
- 出版社/メーカー: 英治出版
- 発売日: 2010/11/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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優れた知的生産を実現するためには? というのが本書の題材である。
知的生産においては 「課題を解決する」 というプロセスが多くあらわれる。 そこで 「課題の質」 と 「解の質」 の 2 軸に分けて考える。 多くの人は解の質を高めることを重要視するが、その前に課題の質を見極めることが大事である、というのが本書の柱である。 ソフトウェア開発にせよ何にせよ、多くの課題が目の前にあると思うが、それら全てに対して解を考えるには到底時間が足りない。 そこで、本当に解決する価値のある課題を見極めろ、ということである。 本書ではそのような解決する価値のある課題のことをイシューと呼んでいる。
感想
小手先のテクニックみたいな話ではなく基礎となる考え方の話が主で、あらゆる知的生産活動に適用できる内容で、ためになった。 課題解決・問題解決の力を高めたい、課題が多すぎて手が回らない、多くの課題を解決してもなかなか高い価値を発揮できている気がしない、という人は読んでみると良いと思う。
ソフトウェア開発をしていても、プロジェクト中でやりたいことややった方がいいことはたくさん出てくる。 ユーザー価値に結びつくことでやった方がいいこともあるし、設計上やコード上で整理したいような部分もたくさん現れる。 しかし、それら全てに対応することは (ふつうは) できないだろう。 それらの課題の中から、本当に取り組むべきものが何なのかを見極めて、解決していく、という姿勢を大事にしたい。
技術者をやってるとついつい解の質を高めることに意識を向けがちで、「それ、別に今しなくてもいいよね」 って思ってても頼まれたらついついやってしまう、ということが多いので気を付けたいところ。 きちんと 「それって本当に必要ですか?」 と問うていく姿勢を持ちながら生きていきたい。
思えば昔の上司だったコンサル出身の人も課題の見極めがうまかったなぁという気がする。
また、仮説の段階からストーリーラインや絵コンテを作っていくというのもなるほどという感じであった。 仮説が正しくないとわかったり、詳細がわかってきたら、ストーリーラインも変えていく、というのはアジャイル的なアプローチだなぁと感じる。
著者が脳科学の研究者だったということもあって、人の知覚の側面からの解説も入っているのも興味深い。
本書の内容 (個人用メモ)
イシューを見極める
イシューとしては、仮説を立ててスタンスをとるということが大事とのことである。 例えばアプリ開発をしているとして、「継続率はどうなっているか」 という漠然とした疑問ではなく 「継続率を高めることが売り上げ増に結び付くのではないか」 という形の仮説を立ててイシューとする、という感じ。 私の理解としては仮説を立てるというよりも 「目的を明確にする」 のが大事なのかな、と思った。 そうすることで、以下のような利点がある。
- イシューの答えが何であるかを明確にする。 (上の例だと、継続率を知ることは本質ではなくて、売り上げ増に結びつくかどうかが本質。)
- 必要な情報・分析すべきことがわかる。 (単純に継続率を出せばいいわけではないよね。)
- 分析結果の解釈が明確になる。 (同じ 「継続率」 を得るにしても、目的がはっきりしていないと期間や粒度が十分かどうかが不明。)
それから、良いイシューとしては 「深い仮説がある」 ことの他に 「本質的な選択肢である」 ことと 「答えが出せる」 ことがある。
仮説ドリブン (イシュー分析)
イシューを見極めた後は解の質を高めることも重要である。 そのために、まずはイシューの分析を行う。 下記の流れとなる。
- ストーリーラインづくり
- イシューの分解 : 大きなイシューを小さく分解する。 ダブりなく漏れなく、が重要。 例えば卵の健康への影響を考えるときに、黄身と白身で分解する、みたいな感じ。 いろんな切り口がある。 売上についてだったら、「ユーザー当たりの単価×ユーザー数」 とか 「市場規模×シェア」 とか。
- 分解されたイシューに基づいてストーリーラインを組み立てる : 「問題意識・前提知識」 「カギとなるイシュー・サブイシュー」 「それぞれのサブイシューの検討結果」 「それらを統合した意味合い」 といったものを構造化して並べて、最終的に何を伝えたいのかのストーリーラインを組み立てる。
- 絵コンテづくり : イシュー検討結果の図表やグラフのイメージづくり。
イシュー分解の目的は、全体像の把握とサブイシューの中での優先順位付け。 ストーリーラインを作り目的は、第一に誰かに伝えるときのベースとして、第二に、ストーリーラインに応じてイシューの検討結果の表現が変わるため。 ストーリーラインの型としては 「Why の並びたて」 や 「空・雨・傘」 がある。 ストーリーラインは、「仮説がすべて正しいならば」 という前提で組み立てていく。 仮説が正しくないことがわかったら、その時にストーリーラインも組み替えたりする。
絵コンテづくりは、誰かに伝えるときにどういう図表があると良いか、どういう結果が欲しいのか、というのを明確にする作業。 ここも仮説ベースで進めていく。 取れそうな結果ではなく、取りたい結果をイメージする。
アウトプットドリブン・メッセージドリブン
最後に、仮説をもとにして作られたストーリーラインの各サブイシューに対して答えを得て、人に伝えられる形にする。
このときも、ストーリーラインの根底に関わる部分から取り掛かる。 もし (仮説が間違っていたりして) そこが後から崩れてしまっては困る、というところから。 もし仮説が間違っていた場合はストーリーラインを組み替えていく。
実際に人に伝えられる形にする部分についてもいろいろ書かれているが、個人的に意識していきたいと思ったのは以下のところ。
- 1 つの図表で 1 メッセージにする、ということを心掛ける。 (1 つの図表から複数の意味を読み取らせるようにしない。)
- メッセージと分析表現を揃える。 (差分を扱う場合も、比率の差が重要なら比率でグラフを書くべきだし、絶対値が重要なら絶対値でグラフを書くべき、みたいなの。)